大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所郡山支部 昭和29年(ワ)182号 判決

原告

大河原コヨ

被告

大河原秀英

主文

被告は原告に対し金一万五千三百八十五円及びこれに対する昭和二十九年十二月二十五日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求はこれを棄印する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

(省略)

理由

被告が昭和二十九年九月二十日被告方のたばこ乾燥場附近で原告を竹棒で殴打したことは当事者間に争ない。而して原告本人訊問の結果並びにこれにより真正に成立したと認められる甲第一号証の一、二、同第四号証と、証人鳥海克巳の証言並びにこれにより真正に成立したと認められる甲第五、六号証を綜合すると原告は被告に殴打されたゝめ腰部、臀部に打撲傷を受け後更にこれが原因となつて神経痛を発し、これが治療のため受傷後昭和三十年一月八日までの間に福島県田村郡船引町所在秋元病院に対し金三千二百四十円、郡山市の安積病院に対し金二千二百九十円をそれぞれ支払つたことが認められこれに反する証拠はなく、右は被告が原告を殴打した不法行為に因り原告の受けた損害であるといわねばならない。

次に原告本人訊問の結果並びにこれにより真正に成立したと認められる甲第七号証の一乃至四、同第八号証の一乃至三及び証人吉田サヨの証言を綜合すると原告が昭和二十九年九月二十七日より同年十一月一日までの間に自家の農事作業のために富塚ケサヨ外三名に合計金八千四百五十円を支払つて稼働せしめた事実を認めることができ、これに反する証拠はないが、一方証人大河原三平の証言、被告本人及び原告本人各訊問の結果によれば原告は健康の時においても、農繁時には所謂日傭人夫を傭つて農事作業を為さしめたことのある事実が認められしかも原告が人夫に対し支払つた前記金額のうち幾何が原告の受傷に起因するものであるかについては立証がないので、結局右金額についてはこれを被告の本件不法行為に因る原告の損害ということはできないことゝなる。又証人鳥海克巳の証言によれば、原告の本件打撲傷及びこれに起因する神経痛が軽快して通常と変りなく仕事ができる様になつたのは昭和三十年二月九日頃からであることが認められ、原告本人訊問の結果によれば原告は昭和二十九年九月二十日から同年十月三十一日までは前記打撲傷及び神経痛のため休業した事実を認めることができる。

証人大河原三平、同大河原久良の各証言及び被告本人訊問の結果中これに反する部分は措信しない。而して証人大河原三平の証言と本人訊問の結果を綜合すると福島県田村郡船引町方面においては農業労働者の賃金は女の場合には大体一日金二百二十円位であることが認められるから、原告は前記休業の期間に得べかりし収益金九千二百四十円を喪失したことゝなり、これは被告の殴打に因る損害といわねばならない。原告が被告の本件不法行為に因つて受けた物質的損害は以上の通り合計金一万四千七百七十円である。次に原告が肩書住居で農業を営み寡婦であり、居村で中流の生活を為し、被告が同様農業を営み中流以上の生活をしている者であることは当事者間に争なく、この事実とさきに認定した諸事実とを併せ考えると原告が被告に殴打せられ打撲傷を受け神経痛を誘発し、直接間接に蒙つた精神的損害に対する慰藉料は金一万五千円が相当である。しかしながら被告本人訊問の結果によれば被告が原告を殴打するに至つた事情は被告が殴打の前日自己のたばこ乾燥場に翌日の作業のため用意しておいた大名竹を原告が被告に無断で持ち去り自分のたばこ干しに使用していて、これを被告に発見され咎められるに及んで「返せばモトだろう」と答えて平然としていたので原告が憤慨してカツとなつたためであることが認められる。

原告本人訊問の結果中右に反する部分はこれを措信しない。原告としては右の様な場合に右の様な返答をすれば被告が興奮して暴行をするかも知れぬということは相当の注意をすれば当然予見できたはずであるから原告は被告の暴行及びこれに因る損害について過失があつたものというべきであり、原告の如上の過失を斟酌すれば本件不法行為に因る損害中その半ばは原告をして負担せしめるのが相当であるから原告は被告に対し物質的損害につき金七千八百八十五円、精神的損害につき金七千五百円計金一万五千三百八十五円及びこれに対する本件各損害発生の後である昭和三十年一月九日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利があることゝなり、原告の請求中この部分は理由があるからこれを認容すべく、その余は理由なきものとしてこれを棄却することゝする。訴訟費用は民事訴訟法第八十二条によりこれを三分しその二を原告のその一を被告の各負担と定める。

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 石川義夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例